Anthropicは10月16日、量子回路の設計をAIに担わせる実験の結果を公開した。量子コンピュータが使う量子ビットは現状数百〜数千個程度しかなく、ノイズにも弱いため、同じ計算をより少ない量子ビット・より少ないゲート数(特に処理コストが高い「トフォリゲート」の数)で実現する回路設計の工夫が重要になる。研究はAnthropicのSTEM Fellows Programに参加するAndi Gu氏が主導し、同社の量子物理学者Alek Kemeny氏が助言、ハーバード大学のSusanne Yelin氏とMikhail Lukin氏(ハーバード大学兼QuEra Computing)が協力した。詳細はarXiv(2610.22367)にも論文が公開されている。
実験では、化学・最適化・量子シミュレーション・数論・数値計算にまたがる8つの基本演算について、Claude(Claude Mythos 5)に自然言語の仕様だけを与え、Python上で回路設計を記述させた。設計は自動評価器が正しさを検証し、「量子ビット数×ゲート数」をコストの目安としてスコア化、Claudeはそのフィードバックを基に人間の介入なしで設計を改善する、という閉じたループで進められた。最も難しい課題では一段落程度の簡潔な指示だけを与え、複数のアプローチを並行して探らせたという。
成果の一つが、楕円曲線暗号の離散対数問題を解く量子アルゴリズムの核となる「点加算」の回路設計だ。最もコストがかかるモジュラー逆元の計算では、従来の量子回路は分岐の履歴を量子ビットに保存する必要があったが、Claudeは履歴を保存せず、各演算後の数値そのものから分岐を復号できることを数学的に導出し、新たな代数的性質を証明、大規模シミュレーションで検証した上でLean言語による形式的な証明まで行った。この設計は、従来最小の量子ビット数の設計に対し量子ビット数を12%増やすだけでゲート数を17分の1に削減するもので、Claudeはこの課題に53時間取り組んだという。
もう一つの成果は、超多項式的な高速化が見込まれる「Decoded Quantum Interferometry(DQI)」のための復号回路だ。従来のユークリッドの拡張アルゴリズムに代えて、毎ラウンド同じ手順を踏むBerlekamp-Massey復号を採用し、一時的な値の多くを保存せず現在の状態から再構成する設計とした。最悪条件を想定すると665量子ビットが必要になるところを、4億回超のシミュレーションにより例外的に保存が必要な値は実質1つで済むことを確認し、19量子ビットの実装にとどめている(失敗率は許容範囲内の約1万回に1回程度)。この結果、GoogleのQuantum AIによる従来設計と比べゲート数を約12分の1に削減できたとしている。Anthropicは、FeMoco問題での同様の改善には複数の研究グループが約8年を要したのに対し、今回の楕円曲線の設計はわずか53時間の実行から生まれたと指摘し、AIによる量子回路設計の高速化が実用的な量子計算の実現を近づける可能性があるとしている。
出典: Anthropic公式研究記事



